公益社団法人 北海道理学療法士会

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知識のマグマ

Vol.30 関節モーメントとは?
北海道科学大学
井野 拓実


 学生のみならず臨床の先生方からも「関節モーメントはわかりにくい」とよく言われます。今回は関節モーメントとそ
の応用について歩行分析を例に挙げて説明したいと思います。
 関節モーメントとは筋張力などにより「関節を回転させる作用」のことです。回転力と言ってもそれほど間違いではな
いように思います。これは関節を回転させる力(N:ニュートン)と関節の回転中心から力の作用する点までの距離、す
なわちてこの柄の長さ(m:メートル)によって決まります。単位はNm(ニュートンメートル)になります。私達は一般
にBIODEX などの筋力測定装置で測った値を「筋力」や「筋トルク」と表現しますが、これも単位はNm であり実は同じ
ものです。
 しかし、この関節モーメントを「わかり難く」しているポイントは2 つあると思っています。ひとつは外部モーメント
と内部モーメントの違い、もうひとつは内部モーメントを構成する能動的要素と受動的要素についてです。
 外部モーメントとは、床反力や慣性力などの外部からの力が関節を回転させる作用です。すなわち「外部膝関節屈曲モー
メント」という表現であれば、床反力などの外力が膝関節を屈曲させる力という意味になります。一方、内部モーメント
とは筋力などによる関節自体が発生する力を意味します。すなわち「関節モーメント」という言葉は関節が発生するモー
メントという意味合いで使われることがほとんどであり、これは多くの場合内部モーメントを指しています。「内部膝関節
伸展モーメント」という表現であれば、大腿四頭筋などの筋張力が膝関節を伸展する力という意味になります。通常、姿
勢に大きな変化がない場合など力学的平衡が保たれている状況下では外部モーメントと内部モーメントは同じ値になりま
す。すなわちこの違いは、外力なのか関節の発揮する力(内力?)なのか、どちら側から表現しているかという違いにな
ります。一般に、論文や教科書などでモーメントについて記述される場合は外部か内部か明記されていることが多いです
が、そうではない場合も存在します。その場合は文脈から外部モーメントなのか内部モーメントなのかを判断する必要が
あり、「モーメントはわかりにくい」と感じる一因ではないかと思っています。
 関節モーメントを理解するうえで重要なもうひとつのポイントについて説明します。内部モーメントは大きくわけて能
動的要素と受動的要素の2 つから構成されています1)。前者は筋収縮により発揮される力であり、後者は粘弾性を有する
関節周囲の組織(皮膚、靭帯、関節包、および筋腱など)が引き伸ばされることにより生じる力、そして関節面の圧迫に
よる反作用として生じる力です。弾性を有する組織は、引き伸ばされることによりエネルギーを蓄積し、伸張位から解放
されることでエネルギーを放出します。内部モーメントは能動的要素と受動的要素を足し合わせたものになります。能動
的要素は筋の収縮力に依存し、受動的要素は「組織がどのくらい引き伸ばされたか」に依存します。すなわち内部モーメ
ントは筋収縮力だけが力源でないことに注意が必要です。
 現在まで様々な歩行分析に関する研究が行われています。近年、歩行時の関節モーメントにおける受動的要素の重要
性が指摘されています。歩行時の関節モーメントを分析した研究において、立脚期後半の内部股関節屈曲モーメントの約
35%、内部足関節底屈モーメントの約21%が受動的要素によるものであることが示されています2)。すなわち立脚期後
半(蹴り出しと下肢の振り出し)においては、股関節屈筋や足関節底屈筋の筋収縮力だけではなく、これらの筋が引き伸
ばされることによる弾性力が利用されていることが示されています。これらの機能が十分に発揮されるためには、股関節
伸展や足関節背屈のROM が確保されていること、そして筋を十分に伸張位にもっていく「歩き方(歩容)」が重要である
と考えられます。一方、膝関節について歩行時もっとも大きな力が発揮されるのは荷重応答期です。この際の内部膝関節
伸展モーメントには受動的要素の貢献がほとんどないこともまた示されています2)。この時期は大腿四頭筋の筋収縮、具
体的には遠心性収縮による能動的な制御が必要不可欠であり、股関節や足関節とは少し違う振る舞いをしていることもポイ
ントです。これらは、筋力トレーニング方法や歩行動作練習の質を高める大切な知見だと考えられます。

【引用文献】
1) Silder A, et al. Identification of passive elastic joint momentangle relationships in the lower extremity.
  J Biomech.2007;40(12):2628-2635.
2) Whittington B, et al. The contribution of passive-elastic mechanisms to lower extremity joint kinetics during    human walking. Gait Posture. 2008;27(4):628-634.