公益社団法人 北海道理学療法士会

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理学療法士の皆様へ

知識のマグマ

Vol.32 姿勢制御の運動学習
北海道大学 大学院保健科学研究院 
浅賀 忠義


 臨床において姿勢や運動を学習するために、多くは視覚的情報を手掛かりにしているといっても過言ではありません。
しかし、練習中は介入効果の手ごたえを感じたにも関わらず、翌日リハ室に来られたときにはすっかり練習前の状態に戻っ
てしまっていることはよく経験するところです。例えば、不良姿勢の改善のために姿勢鏡を用いることによって練習中は
効果が観られるけれども、翌日までなかなかその効果が持続しないなどです。
 感覚feedback (FB) を用いた練習効果に関する既往研究の多くは、視覚、聴覚、振動覚等の一つの感覚刺激を用いた練
習直後の効果、つまり運動適応 (Motor Adaptation) に関するものです。しかも、姿勢制御に関する視覚FB の効果につい
ては見解が一致していません。そんな中で、Ronsse らは、両手の協調運動課題を用いて、連続的な視覚FB と断続的な聴
覚FB による練習後1日経過後の運動学習 (Motor Learning) について比較しました1)。その結果、FB のある条件では、視覚または聴覚のFB による運動適応には差が認められませんでしたが、FB のない条件での学習効果は聴覚FB 練習群のみし
か認められませんでした(図1)。さらに、fMRI を用いた結果、視覚FB 練習群ではFB がない条件にも関わらず視覚領域の
脳活動が増加することが分かりました。つまり、視覚刺激に対する認知活動の依存度が高まっていることが示唆されまし
た。対照的に,聴覚FB 練習群では聴覚領域の脳活動が減少し,聴覚と固有受容覚のネットワークに関連する領域の脳活動が増加することが示されました。しかしながら、姿勢制御に関しては視覚FB と聴覚FB の練習による学習効果を比較した報
告はありませんでした。

無題02.jpg
図1.両手協調性の誤差程度
   値が小さいほど協調性が高いことを示す。

そこで、我々は動的バランスの課題を用いて、連続的な視覚FB と連続的な聴覚FB 練習の学習効果について比較しまし
た2)。連続的に前後運動するターゲットに足圧中心 (COP) の位置を一致させる課題とし、位置のずれに比例してFB 感覚
量が増大するようにしました。その結果、FB のない条件で学習効果が認められたのは聴覚FB 練習群のみでした(図2)。
無題03.jpg
図2.ターゲットに対するCOP 運動のコヒーレンス
   値が大きいほどタイミングエラーが小さいことを示す。

その後、Chiou らはRonsse らの結果は感覚FB が連続的と断続的の違いによるものではないかと異論を唱え、両上肢の
協調運動課題を用いて報告しました3)。その結果、断続的な視覚FB と断続的な聴覚FB 練習群双方に学習効果が認められ、
連続的な視覚FB 練習群には認められませんでした。その報告を踏まえて、現在、我々は前回と同様の動的バランスの課
題を用いて、断続的な感覚FB の学習効果について調べているところです。
 姿勢鏡は、まさに連続的な視覚FB をもたらす道具です。前述の説明から、学習効果が得られにくいことが理解された
かと思います。しかしながら、これらの報告は健常者を対象としたものであり、臨床応用に向けて更なる研究の発展が望
まれます。

引用文献
1. Ronsse R,Puttemans V,Coxon JP,Goble DJ,Wagemans J,Wenderoth N,Swinnen SP: Motor learning with
augmented feedback: Modality-dependent behavioral and neural consequences.Cereb Cortex 21: 1283-1294, 2011.
2. Hasegawa N., Takeda K., Sakuma M., Mani H., Maejima H.,Asaka T: Learning effects of dynamic postural control by auditory biofeedback versus visual biofeedback training.Gait Posture 58: 188-193, 2017.
3. Chiou SC,Chang EC: Bimanual coordination learning with different augmented feedback modalities and information types.PLoS One 11, 2016. e0149221