公益社団法人 北海道理学療法士会

HOME > 理学療法士の皆様へ > 知識のマグマ > Vol.37 片脚立位テストの再考

理学療法士の皆様へ

知識のマグマ

Vol.37 片脚立位テストの再考
北海道大学 大学院保健科学研究院 萬井 太規

 姿勢バランスとは姿勢安定性とも表現され、支持基底面(BOS)に対して質量中心(COM)を適切にコントロールする能力と定義されています。中村らは、姿勢バランスを、身体位置の移動を伴わない運動での姿勢保持を静的バランス、身体位置の移動を伴う運動での姿勢保持を動的バランスと定義し、区別しています1
 片脚立位テストは、小さなBOS内で安定してCOMを保持できる能力、すなわち静的バランス能力を評価するテストとして周知されています。一般的に、片脚立位保持時間が短縮するほど、または保持中の姿勢動揺が大きいほど、静的バランス能力が低いと解釈されます。しかしながら、臨床場面で用いられる片脚立位テストは、両脚立位姿勢から開始される方法で行われます。つまり、両脚立位から片脚立位への移行動作においてCOMを制御する動的バランス能力も必要となると考えられますが、移行動作の特徴を示すデータは、不十分と言わざるを得ません。
 そこで、我々は、COMと足圧中心(COP)の位置関係から、片脚立位動作を3相(加速相、減速相、保持相)に区分する方法を考案し、高齢者の特性を分析しました2。始めにCOPが遊脚側方向に偏移しCOMを加速させる加速相、ついで、COPがCOMを支持脚側へ超えることでCOMを減速させる減速相、最後にCOMが支持脚にて保持される保持相と定義しました(図2)。各相のCOPとCOM間の距離(D加速相、D減速相、D保持相)を高齢者と若年者間で比較し、さらに、変数間の相関、および片脚立位保持時間との相関も算出しました。結果、高齢者は、COPとCOM間の距離が加速相では有意に小さく、減速相と保持相では有意に大きい結果でした。さらに、各相のCOPとCOMの距離は有意な相関を認め、片脚立位時間とも有意な相関を認めました( 表1)。
 この結果は、1)高齢者は、保持だけでなく、移行動作(加速相と減速相)も姿勢バランスが低下している、2)両脚立位から開始する片脚立位テストは、静的バランス能力だけでなく、移行動作における動的バランス能力も重要である、3)移行動作の姿勢バランスは保持相の姿勢バランスに影響することを示しています。
 極端に片脚立位保持時間が短い患者様においては、静的バランス能力だけが低下しているのではなく、動的バランス能力、すなわち、移行動作(体重移動)の能力も問題となっている可能性があることを理解されたかと思います。片脚立位テストの結果から安易に静的バランス練習を行うのではなく、動的バランス能力の問題も含めた視点から評価・治療していくことが望まれます。
 また、動的バランスと静的バランスを区別する方法の一つとして、従来の片脚立位テスト方法に加え、平行棒などを把持した状態で片脚立位姿勢をとることで、体重移動の影響をなくし、手を離した後で評価を開始する方法での評価が考えられます。従来の両者の方法を適宜用いることで、新たな知見が得られる可能性が示唆されます。
 患者様の病態を適切に評価するためには、「片脚立位テストは静的バランスの評価」という概念から脱却し、今一度、テスト方法などを再考していく価値があると考えられます。


図1 片脚立位動作中の体重心と足圧中心の側方偏移数値が大きいほど、支持脚に偏位したことを示す。
各相のCOPとCOM間の距離をそれぞれD加速相、D減速相、D保持相とする。


表1 片脚立位時間とCOP-COM 間距離との相関

デターは総関数を示す。
*:統計的に有意な相関(p<0.05)。

【引用文献】
1. 中村隆一ら.基礎運動学 第6 版.医歯薬出版.2003
2. Mani et al., Age-related changes in distance from center of mass to center of pressure during one-leg standing,J. Mot. Behav. 47 (2015) 282-90.